昔むかし、人とポケモンは同じでした。




+++きっと、咲く。+++




 ポケモンも、人間も、同じ場所に生まれ、同じように育ち、結婚し、死んでいました。
 同じ世界で生きることで、互いに均衡を取っていました。
 強い能力を持っているポケモンたちが、人間たちを脅かさないように。
 たくさんの知恵と意志と感情を授かった人間が、ポケモンたちを虐げないように。

 ポケモンも、人間も、おかしいとは思っていませんでした。
 誰もが、それはごく自然なことだと思っていました。



 しかし、その均衡は、唐突に破られました。
 冬のある日、1人の人間が言いました。



 ポケモンなんて、ちょっと力を持っているだけで、大した知恵もない。
 所詮、ただのけだものじゃないか。



 その人間の発言をたまたま、時の神が聞いていました。
 人間たちの知恵も、意志も、感情も、元々はそれらを司る神々であるポケモンたちから授かったもの。
 それをないがしろにして、ポケモンを見下す発言をする。


 時の神は、その人間のあまりに傲慢な発言に、我を忘れて怒りました。


 時の神の怒りを受けた土地は、時が止まりました。
 その土地は主に神の住まう山でしたが、たった1か所、その山に囲まれた平地が巻き込まれていました。

 時の神は言いました。
 未来永劫この場所には、時が流れることはない。
 この土地にはもう、永遠に春が訪れることはないだろう、と。



 人間たちは、時の止まった土地を訪れ、そこに町を作りました。
 しかし、どんなに時が流れようとも、その町に春が訪れることはありませんでした。


 人々は町の外れに、1本の木を植えました。
 春にならないと花を咲かせない、桜の木でした。

 春の訪れないこの町では、その木が花を付けることはありませんでした。
 しかし、町の人たちは、木を見上げながら口々に言いました。


 終わらない春はない。
 いつかきっと、春は来る。いつかきっと、花は咲く。
 いつかきっと、花は咲く。
 きっと、花は咲く。

 きっと、咲く。



 それから、ずいぶんと永い時が流れました。


 今はもう、人間とポケモンは違う存在です。


 ポケモンも、人間も、違う場所に生まれ、それぞれに育ち、結婚し、死んでいます。
 違う世界で生きることで、互いに均衡を取っています。
 強い能力を持っているポケモンたちが、人間たちを脅かさないように。
 たくさんの知恵と意志と感情を授かった人間が、ポケモンたちを虐げないように。

 ポケモンも、人間も、おかしいとは思っていません。
 誰もが、それはごく自然なことだと思っています。



 終わらない冬が続く町。
 その町はずれには、今も花を付けない、大きな桜の木があります。
 なぜそんなところに桜の木があるのか、知っている人はもう誰もいません。
 それでも、人々は木を見上げ、口々に言うのです。



 終わらない冬はない。いつかきっと、春は来るさ。
 いつかきっと、花は咲くよ。
 この、木にも。


 いつかきっと、花は咲く。
 きっと、咲く。
 きっとさく。




 ……この町が「キッサキシティ」と呼ばれるようになったのは、そのような理由があるそうです。





+++++++++The end




あとがき

キッサキシティって春でもダイヤモンドダスト舞ってますよね。
「RPGだから」と言ってしまえばそれまでなんですが、どうせなら何か理由があってもらいたい。
それで何か考えていたら町の名前とリンクしたので「あ、これいいんじゃね?」って感じで文章ができました。
(初出:2008/4/24 マサラのポケモン図書館)



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