目次 気がついたら書いていた(洗濯日和8)

台風上陸(続・洗濯日和8)

発売前夜。

【来たれ】発売当日。【カゲボウズ】

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+++気がついたら書いていた(洗濯日和8)+++



 アパートを改装するそうだ。
 学生ばかりのアパートだから、大半の学生が実家に帰る夏休み期間を狙ったんだろう。
 でも僕は夏休み早々に用事で実家に帰った。僕は大学から実家が遠いから、一度帰るともう一度というのはかなり面倒臭い。お金もかかるし。

 ということを不動産屋に言うと、改装が終わるまでの一月の間、別の物件を借りられることになった。
 もらった資料をパラパラとめくる。大学から多少遠くても、狭くても、古くても、安いところがいいだろう。どうせ夏休みだし。
 と考える僕の目に留まったのは、とあるアパートの空室情報。
 昔ながらの四畳半。見るからに年期の入った外観。それを差っ引いても異常なほど安い家賃は、その部屋で何か良からぬことでも起こったのであろうことが予想できる。
 でも、まあ、いいか。安いし。


 外装と屋根の修理だけなので、大きな家具は置きっぱなしでいいらしい。それよりそれだけで一月もかかるのが不思議だ。
 服と食器と布団とパソコンだけを持って、僕は夏の間の仮住まいへ向かった。
 『幸薄荘』という、どことなく陰気なムード漂う名前。
 ここの206号室にしばらく住むことになる。

 大家さんへ挨拶に行ったら、大きな荷物ですね、と目を丸くしていた。まあ、持ってる中で一番大きなバックパックに荷物を詰めて、その上に丸めた布団をくくりつけて、さらにその上にヤミラミが乗ってるんだから大荷物だろう。
 でもこれだけなのだから、全体的には少ない。専攻柄このくらいの荷物なら背負い慣れてるし。むしろ電車や車が使えるだけ、いつもの荷物を背負って山の中を歩き回る研究よりましだ。

 2階の一番右端の部屋。
 扉を開けると、かびとほこりの臭いが襲ってきた。どれだけ人が住んでいなかったのだろうか。ヤミラミが大きなくしゃみをした。
 こりゃ何より先に換気だな、と思って、閉じっぱなしになっていたカーテンを開けた。

 軒下にずらりと並ぶ、黒いてるてる坊主。
 3色の瞳とバッチリ目があって、僕はカーテンを閉めた。

 何だあれ。前の住人が忘れていったのか? にしても、あんなにたくさんのてるてる坊主を作るなんて、そんなに晴れてほしかったのか前の住人は? フィールドワーク主体の僕としては気持ちはわからないでもないけど、いくらなんでも多すぎるだろう。しかも大きい。
 ヤミラミが興奮したようにギャーギャーと騒ぎ立てる。ああやめて肩によじのぼらないで。Tシャツが灰色になる。
 こいつがこれだけ騒ぐってことは、あのてるてる坊主、もしかしてポケモンなんだろうか。僕はポケット図鑑を取り出した。
 お目当てのポケモンはすぐ見つかった。
 カゲボウズ。
 負の感情を食べる、とか、魂の宿った人形、とか。何かよくわかんないけど、こいつもヤミラミと同じゴーストポケモンらしい。
 何で僕の部屋の窓にぶら下がってるんだろう。新入りの偵察とかそんなものだろうか。

 まあとりあえず、今は換気だ。僕はカーテンを開けた。カゲボウズたちは相変わらず軒下に並んでこっちを見ている。
 窓を開けると、真昼の蒸し暑い外気が部屋に入ってきた。それと一緒に、カゲボウズたちまでほこりだらけの部屋に入ってきた。7匹くらいいるだろうか。
 ヤミラミが興奮していきり立っている。一時期とはいえ自分の城となる場所に、よそのポケモンが入って来るのが気に食わないのだろうか。いや、部屋の主は一応僕だけど。
 僕は気にせず掃除をすることにした。こいつのことだから、しばらくしたらおとなしくなるだろう。案の定、数分もしたらヤミラミはカゲボウズたちとじゃれあってケタケタ笑っていた。
 天井のクモの巣を掃い、上から順にほこりを落としていく。前の住人が残していったのであろう電気カバー、小さな本棚、ちゃぶ台。家具は少ないのですぐに終わる。
 あとは畳をほうきがけするだけ、と思って床を見ると、そこには白い塊がいくつも転がっていた。
 よく見ると、それは全身ほこりまみれになったカゲボウズたちとヤミラミだった。ほこりのつもったの畳の上で転がっているうちに、元々黒かった体が脱色したようにすっかり白くなってしまったらしい。
 僕は水場に放置してあった、大きな金だらいを持ってきた。これも前の住人が置いていったものだろう。昔ながらの助け合い精神というものだろうか。それとも持っていくのが面倒だったのか。
 白っぽい粉をふくほどほこりまみれになっているカゲボウズたちとヤミラミを拾いあげ、金だらいに入れた。そして畳のほこりをすっかり掃いた。
 外へ飛び出していこうとするカゲボウズとヤミラミを押さえ付けて、金だらいを抱え上げた。重い。でも持てないレベルじゃない。
 ホースとタオルも持って、僕はアパートの外に出た。


 金だらいを運びだした。さすがに重かった。
 アパート外の水道の蛇口にホースを取り付け、金だらいに水を入れる。
 途端に、ヤミラミが短い叫び声をあげて飛び出した。そういえばこいつは水が苦手だったな。シャンプ-させる時はいつも、僕とこいつの攻防で風呂場が戦場になる。
 一方、カゲボウズたちは目を閉じて、気持ち良さそうに水を浴びている。金だらいの中の水はあっという間に汚くなる。
 さて、こいつらをどうしようか。さすがに水だけじゃ汚れがきれいに落ちない。金だらいの中のカゲボウズは、ひらひらがまだ少しまだら模様だ。
 せっけんかボディーソープを使うべきか。でもさっきの図鑑に書いてあったな。『カゲボウズは人形に魂が宿ったもの』って。そういえばこのひらひらはまんま布だ。ということは、洗濯用の洗剤か。でも一応生き物だしなあ。
 まぁ、一応持ってきてた手洗い用のせっけんでいいか。僕の使ってる洗濯用洗剤、漂白剤入りだし。カゲボウズが脱色されてしまったら困るもんな。

 タオルに石けんをこすりつけて、カゲボウズたちの汚れているひらひらを軽くたたく。くすぐったいのか、笑いながら僕の手にすり寄ってくるカゲボウズたち。すべすべなようなぷにぷになような、冷たいような温かいような不思議な感触。
 しばらくカゲボウズたちと楽しく戯れていると、突然腰を衝撃と鈍痛が襲った。
 ほこりまみれのヤミラミが、ギャーギャー騒ぎながら僕の頭にしがみついてきた。さてはこいつとび蹴りしてきたな。僕がカゲボウズたちを楽しく洗濯しているのが羨ましかったのか何なのか。
 僕は右手で蹴られた腰をさすりながら、左手でヤミラミの首の後ろをつかんで金だらいの中に放り込んだ。これもほこりを落とすためだ。我慢してくれ。
 水の中にダイブしたヤミラミは、奇声をあげて金だらいから飛び出し、逃げ出した。
 カゲボウズの洗濯で何だか気分がハイになっていた僕は、ホースの先をつぶして水流の勢いをあげ、浴びせかけながらヤミラミを追いかけた。カゲボウズたちは水を滴らせながらふよふよと僕を追いかけ、けらけらと笑っていた。

 残暑厳しい昼下がり、ホースを持ってカゲボウズと共にヤミラミを追いかける大学生。
 傍から見たらきっと怪しい光景だっただろうなと思ったのは、僕もヤミラミもカゲボウズたちも、頭のてっぺんから足の先までずぶぬれになってからだった。


 びしょぬれになったTシャツとカゲボウズたちを干す。カゲボウズたちは自力でロ-プにぶら下がれるらしい。便利なものだ。まあ確かに、初めて顔を合わせた時も自力で軒下にぶら下がってたし。洗濯バサミで止めようとしたら全力で拒否された。まあ確かに僕も、洗濯バサミで頭から吊るされるのは痛いから嫌だ。
 ヤミラミはさすがに干せないからとりあえずタオルで全身を拭いてやったら、日のあたる場所にタオル敷いて昼寝してた。もう夕方近いから昼寝って言うのもおかしいか。

 引っ越し、掃除、洗濯。更にヤミラミとの追いかけっこ。
 僕も何だか眠くなってきた。
 今日は早く夕飯食べて、さっさと寝よう。
 食材買ってないし、どこかに食べに行くか。冷やし中華とかいいなあ。

 というわけで、夏休みが終わるまではこのアパートにお世話になります。
 とりあえず、今日は初日だし、いい夢見られるといいな。



おまけ。

地学マニア「昨日、知らない紫色のポケモンがリンボ-ダンスしてて、僕がそれを傍らで見て大爆笑してる夢を見た。
何だったんだろうアレ。夢で笑いすぎて目覚めが悪い」



カゲボウズ洗濯祭りに便乗
(初出:2010/8/24 マサラのポケモン図書館 洗濯日和スレ)






+++台風上陸 (続・洗濯日和8)+++



 テレビなんてないから、ラジオの気象通報のデータを用紙に落とす。うん、そんな予感はしてたんだ。
 このアパート、大丈夫かな。結構古いからなあ。屋根とか飛ばなきゃいいけど。

 台風、今季初上陸。


 カーテンを開けた。大粒の雨が降っている。まだ本格的ではないようだけど、風もなかなか強いみたいだ。
 この辺が暴風域に入るのはもうちょっと先かな、と思いながら窓の外を見ていると、ポリゴン2にまたがったヤミラミが服の袖を引っ張ってきた。
 何かと思うと、向かいのアパートの1室を指差している。
 目を凝らしてよく見てみると、ベランダの軒下で、黒いものが風にあおられてひらひらと揺れている。

 あ、カゲボウズだ。

 このアパートの周辺にはカゲボウズが多い。というか、このアパートに住み着いているらしい。宿つきカゲボウズと呼ばれているとか何とか。
 負の感情を抱えた住人の部屋の軒下にぶら下がっていることが多いみたいだ。この周辺のいろんな部屋の窓にくっついていつのを僕もよく見ている。


 それにしても、台風接近。こんなときにまでぶら下がらなくても、と僕は思う。
 ぶら下がっているカゲボウズも、何だか必死な表情だ。飛ばされないように頑張っているんだろう。それでも、強風にあおられて色々な方向に振り回されている。

 まずい、あれ、飛ばされるんじゃないだろうか。これから暴風域に入ったら、あのカゲボウズも耐えられないかもしれない。
 僕は窓を開けた。部屋に雨が降り込んできた。もう大分風が強い。


 その時、とうとう限界を超えたのか、カゲボウズが軒下からプチッと離れた。
 風に舞いあげられて飛んでいくカゲボウズ。
 あ、と思った次の瞬間、僕の横を何かが高速で横切った。

 ヤミラミを乗せたポリゴン2が、暴風雨の中、目にもとまらぬ速さで飛びだした。確か「こうそくいどう」とかいうんだっけあの技。
 背に乗ったヤミラミが、風に飛ばされたカゲボウズを捕まえた。
 泥水にまみれた今にも泣きそうな顔のカゲボウズを連れて、ヤミラミとポリゴン2が部屋に戻ってきた。
 雨風にさらされていたカゲボウズは、部屋に入るなり僕に飛びついてきた。Tシャツが泥だらけになったけど、台風接近中のなか、外で雨風にさらされていたんだから無理もない。
 僕はお疲れ様、とヤミラミとポリゴン2の頭をなでた。ヤミラミは誇らしげに胸を張った。ポリゴンは相変わらず無表情だった。

 ふと視線を感じた。部屋が暗い。
 窓の外を見ると、カゲボウズたちがわらわらと集まってこちらを見ていた。10匹、いや20匹はいるだろうか。
 みんな雨やら泥やらで濡れて汚れていた。そうか、こいつらみんな、外で雨風に打たれてたんだな。で、この台風接近中の中、窓を開ける奇特な家なんてここくらいだから、ここの宿つきのカゲボウズたちがみんな寄ってきた、と。
 僕は手まねきして、入りなよ、とカゲボウズたちに言った。カゲボウズたちはわらわらと部屋に入ってきた。
 決して広いとはいえない4畳半が、濡れた黒い布で埋め尽くされる。ヤミラミは僕の肩によじ登ってきて、ポリゴン2はパソコンに入っていった。
 とりあえず、みんな泥やらほこりやらで汚れているし、部屋の中だけどしょうがない、洗濯しよう。


 そう思って水場から金ダライを持っていこうとしたちょうどその時、どんどんとドアを叩く音がした。
 出てみると、全身濡れた男の人が立っていた。確か、ここのアパートの人で……確か、よくカゲボウズを洗濯して干している人だ。

「す、すみません! あの、この部屋にカゲボウズたちが集まってきませんでした?」
「あ、ええ、はい。台風にさらされててかわいそうだったんで」
「な、何かすみません。いつも俺の部屋にいる連中なのに……」
「いやいや、気にしないでください。遊び相手が増えてこいつも喜んでますから」

 そう言って、僕は肩の上のヤミラミを指差した。ヤミラミはそうだと言うようにけらけらと笑った。
 男の人は、僕が手に持っている金ダライに気がついた。

「もしかして……これから洗濯ですか?」
「あ、はい。みんな汚れちゃってるんで」
「じゃあ、俺も手伝います! これでも俺、一応ポケモントリミングセンターで働いてるんで!」

 トリマーって。プロじゃん。すごいなぁ。そんな人がこのアパートにいたんだ。
 僕はもちろん喜んでお願いした。さすがにカゲボウズの数が多すぎて、ひとりで洗濯するのは辛そうだったし。


 どうやらこの台風の接近でお店を今日は早めに閉めたそうで、自転車通勤だったトリマーさんはその帰りに暴風雨にさらされたらしい。
 それでアパートの前に来た時、僕の部屋にカゲボウズたちが飛び込んでいくのを見たとか。なるほど、それで僕の部屋にまっすぐやってきたのか。

 とりあえず、身体を拭いてくださいとトリマーさんにタオルを渡した。
 服も濡れてたから、同じアパートだし着替えに行ってもらえばよかったんだけど、ちょうど暴風域にでも入ったのか、狙ったかのように風と雨が強くなった。
 これだとどちらにせよずぶぬれになってしまう。他の部屋に行くには外階段を通らなきゃならないし。というわけで、僕のTシャツとズボンを着てもらうことにした。

 トリマーさんが着替えている間に、僕は畳の上にブルーシートを敷いた。カゲボウズたちにはちょっと浮かんでいてもらって、ちゃぶ台をどけて、4畳半にピッチリと敷き詰める。
 着替え終わったトリマーさんが、どうしてこんなもん持ってるのか、と驚いて聞いてきた。
 僕は、大学で地学を専攻してるんです、だから屋外で使えるものなら大体持ってますよ、と言った。トリマーさんはブルーシートをつまみながら、これがあったら雨でも選択できるなぁ、と小さくつぶやいていた。

 金ダライをブルーシートの上に置き、ポリタンクにためていた水をタライに入れた。万が一断水した時のためにと思っていたんだけど、まぁ多分大丈夫だろう。
 水を張ると、すぐにカゲボウズたちが何匹かタライの中に飛び込んできた。トリマーさんは、こら待て、順番、とかカゲボウズたちに言い聞かせていた。本当にいつも洗ってるんだなぁ、と思った。
 トリマーさんは慣れた手つきでカゲボウズを洗う。気持ち良さそうに目を細めるカゲボウズ。まだかまだかと順番を待つカゲボウズたち。
 僕はお湯を沸かしたり、洗われた子をタオルで拭いたりした。トリマーさんの手つきがよすぎて、手を出すと逆に邪魔な気がすると思ったから。
 肩の上のヤミラミがぴょいと床に下りた。見違えるほどきれいになったカゲボウズたちを見て、ヤミラミはとことことトリマーさんの方へ行った。

「お? よかったら、ヤミラミもシャンプーしようか?」
「でもそいつ、水苦手ですよ?」
「大丈夫大丈夫。そういうの慣れてるから」

 ううむ、さすがプロ。かっこいいなぁ。
 畜生ヤミラミの奴、大人しくシャンプーされやがって。プロすげぇ。
 そういえば君、とトリマーさんが言った。

「この前、カゲボウズと一緒にホース持ってヤミラミ追いかけまわしてたよね?」

 見られてた……!!


 4畳半の天井にロープを張って、カゲボウズをずらっと吊るす。
 おぉ、すごい数だ。天井が真っ黒だ。
 僕はトリマーさんとコーヒーをすすりながら天井を見上げた。

「何と言うか……威圧感がありますね」
「これだけ集まるとすごいなぁ」

 ヤミラミがじゃれてきた。これまでにないほどふわふわな毛並み。ヤミラミもとても機嫌がいい。プロすげぇ。
 お店の場所も教えてもらったし、今度行ってみよう。



 暴風圏を抜けるまで、もう少し。
 台風が過ぎ去るまで、あと1晩。



カゲボウズ洗濯祭り便乗その2
全ての元凶もといCoCoさんの毒男さんお借りしました
(初出:2010/9/9 マサラのポケモン図書館 洗濯日和スレ)






+++発売前夜。+++



※BW発売前夜

とある片田舎の民宿、夕食の終わった後の食堂にて。


『あ゛〜っ!! ポケモンやりてぇ〜っ!!』

「何だよ急に……あ、そうか明日発売日か」

『そーだよ! マジでタイミング悪いっつ-の!!』

「7泊泊まりがけの実習の真っ只中だもんなあ」

『そーだよ! 帰るの20日だぜ!? 2日も待たされるんだぜ!? マジありえねーって!』

「おぉ……俺なら待てねぇな。っつーかさ、近くのサークルKとかで買えばよかったんじゃね? っつ-かお前一応女なんだからさ、もうちょい言葉遣いさ……」

『こちとら予約開始日にジャスコで予約したんだよ!』

「あーあ……」

『っつーかさ、予約だけで170万越えてるソフト、予約無しで買えるわけなくね? 2ヶ月は品薄とにらんでるね自分は』

「あー、確かに無理っぽいな。俺もダブルオーの公開日明日だわ」

『マジタイミング悪いよなー! ね-よ。マジねーよ』

「っつーか実習期間の発表が2週間前とかないわー。マジでないわー」

『公式サイト見るとさー、カウントダウンしてんだよ。『あと1日』ってさー、もー何かもやもやしてあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!! てなるんだよ!』

「ま、まー落ち着けって」

『あ゛〜っ!! ポケモンやりてぇ〜っ!!』

「……まぁさ、発狂するのは明日にしてさ、野球の話でもしようぜ野球。今年のカープさ……」


この後3時間ほど野球で語り合って、イチローに関する新説が固まったところでお開きとなりました。
あ゛〜っ!! ポケモンやりてぇ〜っ!!



悲しいことにほぼ実話
(初出:2010/9/17 マサラのポケモン図書館)






+++【来たれ】発売当日。【カゲボウズ】 +++



 朝から不愉快だった。誰の目から見てもそう見えたことだろう。
 理由は察するに余りある。待ちに待った発売日だというのに、予約開始日に予約した新作だというのに、その店へ買いに行くことも出来ない。
 言わば自分は今、実習という名目で、どことも知らぬ海辺の片田舎に閉じ込められているようなものである。

 それでも調査には行かねばならない。海辺の民宿の部屋でふて寝したい気分ではあったが、ゲームも手に入らない上に単位まで捧げる気にはなれないからだ。

 野外を歩く準備をして、時間があったので玄関で携帯を開く。昨夜爆発しそうな怨みを携帯でたたきつけたポケストの記事を見ると、No.017さんから返信があった。
 インタビューをする鈴木ミカルゲ氏。鈴木というと、昨夜のイチロ-談義を思い出す。
 氏の問いに星一徹も裸足で逃げ出す剣幕で返す自分。

 これ何て今の自分?

 笑って少し気分が軽くなり、自分は班員と共に山へ向かった。


+++


 昼過ぎには民宿へ戻った。
 行き帰りの道中ではずっとポケモンの話をしていた。別の話で気を紛らわすより、少しずつ発散させたほうが危険が少ない。そう班員が判断したのかどうかは知らないが、いずれにせよ今日はポケモンのことが頭から離れるわけがなかったのでよかっただろう。

『あぁ……ポケモンやりてぇ……』
「っつーかこっちで買えばいいじゃん? あ、予約しちゃったんだっけ?」
『そーだよ……それに絶対品薄だし』
「でも田舎だと何故かあることがあるよねー」

 班員はそういったが、十数年前金銀を買ったとき、田舎の中の田舎を自負する我が故郷にもなかったことを思い出していた。


+++


 班員(ちなみに全員男)が民宿のすぐ近くの海で泳ぐのを眺めていたが、しばらくして近く(?)のスーパーのゲーセンに行こうという話になった。

 民宿から歩いて30分はかかるス-パ-の2階。何だか時代を感じるゲームが並んでいる。っつーか今時1プレイ10円のゲ-ムなんて他にあるのか?
 この10円の音ゲーも一体いつのだ。曲からして1994年か1995年か。ちょっと面白そうだ。
 そしてウエストポーチを漁って気付く。
 財布忘れた。


+++


 班員が遊ぶのをずっと見て、帰る時間になった。
 階段を下りると、目の前には玩具屋が。
 見なけりゃいいのに、ゲーム売場をのぞいてしまう。

 白と黒の2つのパッケージ。
 手書きの紙が貼ってある。


『ポケットモンスターブラック・ホワイト 4480円』


 ……あれ、おかしい。
 もう一言二言書かれて……

 ……ない。


「でも田舎だと何故かあることがあるよねー」


 班員の言葉を思い出す。 買っちゃえよ、と班員が言う。でも自分は両方予約した。買ったらどちらかダブってしまう。自分が同時に愛を注げるソフトは最大2本と経験的にわかっている。
 そして何より、自分は財布を忘れた。


 ……。


 …………。


 ………………………………。



『あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛っ!!!』



 発 狂 。


 びっくりする店員と慌てて抑えようとする班員が見えた気がした。


+++


 重い足を引きずりながら歩いていると、友人からメ-ルが届いた。


件名:
BW買ったょ(^□^)v
本文:
楽しんでるかい?www


 何も考えられなかった。
 言語中枢を介さず、反射的に返事を返した。


件名:
実習中
本文:
爆発しろ。



残念なことにほぼ実話
(初出:2010/9/18 マサラのポケモン図書館)






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 見られている。

 誰にか知らないけど、見られている。



『ずっとパソコンしてるな……何か変化ないかな』



 こうやってキーボードを叩いている間も。

 そっと辺りを見回してみたけれど、誰もいない。

 コーヒーを淹れるために立ち上がった時もずっと、視線を感じる。


『立った!』
『コーヒー淹れるだけかよ、つまんねぇwww』


 狭い研究室の中。

 先輩はパソコンに向かっている。

 同級生はみんな帰った。

 それなのに、見られている。


『つまらねー何かしろよー』
『まあまあ、じっくり待とうではないか、同志よ』
『ってかこいつサボってるwww 研究しろwwwww』


 わずかな指の動きまで。

 そっとずらした視線まで。

 全て、見られている。










『さてと、次はどう動くかな?www』
『あっ こっち見た   ばれたかな?』
『ばれてないばれてない。大丈夫』
『何かツイートしてるな』
『誰かツイッターのぞける同志は』
『確認した。『誰かに見られてる気がする』だそうだ』
『気づいてはいるのかwwwww』
『そりゃこれだけ見てれば気付くだろwwwww』
『頭かきむしってるwwww』
『イライラしてきたみたいwwwww』
『マジwwwwwウケるwwwwwうぇwwwwwww』
『あぁ目が血走ってきてるwwwwwwそろそろ限界の予感wwwwww』


 やめてくれ。もう見ないでくれ。

 どうして見てるんだよ、そこの閲覧者。


 どこにいるんだ。

 どこにいるんだ。

 どこだ。

 どこだ。



 どこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだ










『あっ、飛び降りた』
『飛び降りたねー』
『飛んだ飛んだ』
『2階だからねー。死んではいないみたいだねー』
『やりすぎたかなぁ』
『戻ってくるまで別の獲物探さないといけないねぇ』
『そうだねー』
『面倒だなぁ』
『あー、お腹いっぱい』



『ごちそうさま』
『ごちそうさま』
『ごちそうさま』
『ごちそうさま』
『ごちそうさま』
『ごちそうさま』
『ごちそうさま』
『ごちそうさま』
『ごちそうさま』
『ごちそうさま』
『ごちそうさま』
『ごちそうさま』
『ごちそうさま』
『ごちそうさま』
『ごちそうさま』
『ごちそうさま』
『ごちそうさま』
『ごちそうさま』
『ごちそうさま』
『ごちそうさま』
『ごちそうさま』
『ごちそうさま』
『ごちそうさま』
『ごちそうさま』
『ごちそうさま』
『ごちそうさま』
『ごちそうさま』
『ごちそうさま』
『ごちそうさま』
『ごちそうさま』
『ごちそうさま』
『ごちそうさま』
『ごちそうさま』
『ごちそうさま』
『ごちそうさま』
『ごちそうさま』
『ごちそうさま』
『ごちそうさま』
『ごちそうさま』
『ごちそうさま』
『ごちそうさま』
『ごちそうさま』
『ごちそうさま』
『ごちそうさま』





 とある大学の窓際に、黒いてるてる坊主たちが風にあおられてはためいていた。



何かチャットで書けって言われたから書いた
コピペは自重しなかった
(初出:2011/5/9 マサラのポケモン図書館)







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