ようやく見つけた『犯罪者』。
 しかし、それ以上の手がかりは、最も厄介な相手であるジュプトルの手がかりはまだない。

 その時、空を覆い尽くすほどの数のペリッパーが飛んできた。
 何かあったのだろうか。いやに胸騒ぎがする。



+++闇世の嘆き 時の護役+++
Chapter―4:迷走



 プクリンのギルドにいたビッパが、少年たちを呼びに走ってきた。やはり何かあったらしい。
 もしかしたら、いや、おそらく間違いなく『時の歯車』に関することだ。わたしも少年たちとともにプクリンのギルドへ向かった。


 案の定、騒ぎは『時の歯車』に関することだった。
 ついに3つ目の時の歯車が盗まれた、という。
 そして話によると、その『時の歯車』があった場所は、以前このギルドの者たちが遠征に行った、霧の湖だという。
 それを聞いて、少年たちは驚いて顔を見合わせた。

「ど、どうして!? 霧の湖の時の歯車のことは……ボクたちだけの秘密だったハズだよね? それなのにどうして!?」

 ボクたちだけの……秘密?

 わたしはその言葉に驚き、ギルドの者たちの顔を見渡した。誰も彼もが少年たちと同じような表情をしていた。
 こ、これは……一体どういうことなんだ?

 わたしは混乱しながら、プクリンに尋ねた。
 霧の湖に時の歯車があるなんて初めて聞いた、そもそも今回の遠征は失敗したのではなかったのか、と。
 プクリンは困ったような顔をしてわたしに言った。

「ごめんね。ヨノワールさん。実はある約束があって、ヨノワールさんには言えなかったんだよ……」

 わたしは愕然とした。それと同時に、ふつふつと怒りが湧き上がってきた。
 彼らは嘘をついていた。遠征は失敗どころか、『時の歯車』を発見することが出来ていた。
 もし彼らがわたしに嘘をつかなかったなら、先手を打つことができたなら、霧の湖の『時の歯車』も盗まれることなく、ジュプトルを捕らえることができたというのに!

 わたしが怒りとショックで言葉を失っている間に、ギルドの連中は、全ての仕事をジュプトル捜索に回すことを決定していた。
 怒りは収まらなかったが、そうとなれば話は別だ。捜索にはどれだけ手があっても足りないことはない。私は自ら申し出て、ギルドに協力することにした。

 わたしはプクリン、ぺラップと話し合い、捜索場所を定めた。
 過去わたしが訪れた場所に『時の歯車』はなかった。だから、まだわたしが行っていない場所の中で、特に怪しい場所をいくつかあげ、そこへギルドの連中を手分けして向かわせることにした。
 『東の森』。『水晶の洞窟』。そして『北の砂漠』。
 どこも捜索場所としては申し分ない。あとはそこに『時の歯車』があることを祈るのみだ。


 だが、成果は上がらなかった。それらのどこにも、『時の歯車』の痕跡すらなかった。
 『東の森』はただの森で、『北の砂漠』には流砂があるだけ。『水晶の洞窟』にも水晶があるだけで、ビッパがちゃっかり拾って帰っているだけだった。
 さすがに落胆した。今回は自分でもかなり自信があった。
 どうしていつもこうなのだろうか。この世界に来てから、勘という勘が呆れるほど外れている。

 しかし、落ち込んでいる暇はない。ジュプトルが次にいつ、どこに現れるかはわからない。
 とにかく、もう一度作戦を立て直さなければ。


 翌日、ギルドの連中は各々調査してもらい、わたしは再びペラップ達と作戦を練り直した。
 しかし、なかなか名案が思い付かない。これでもわたしはこの世界に来てから、様々な場所を渡り歩いた。あの場所はある種最終的な結論だった。

 八方ふさがりでどうしようもなくなっていた、その時、驚くべき知らせが届いた。


 少年たちが向かった『北の砂漠』。
 その巨大な流砂の中に湖があり、そこには『時の歯車』と、それを守るポケモン、エムリットがいたらしい。
 エムリットは『時の歯車』が盗まれたことをユクシーから聞いていたらしい。
 そしてそこにとうとう、ジュプトルが現れた。
 少年たちはジュプトルに襲われ、残念なことに『時の歯車』は持ち去られた。

 ジュプトルが、少年と接触した。
 それを聞いた瞬間、わたしは背筋が凍りついた。
 元人間のチコリータの少年は記憶をなくしているが、万が一、ジュプトルが少年の正体に気がついたら……。

 しかし、幸いにも互いの正体には気がつかなかったらしい。
 それを聞いて、正直ほっとした。結局『時の歯車』は盗まれてしまったわけだが、ある種最悪の事態は避けられたわけだ。


 『知識の神』ユクシー。『感情の神』エムリット。湖に住まう、精神界を司るポケモンたち。
 そしてもう1匹、同じく精神界をつかさどるポケモンがいる。『意志の神』と呼ばれるアグノムだ。
 おそらく同じように、『時の歯車』を護っているはず。
 他の2匹と同じく湖に住まうと言われているが、他の湖がそれこそとんでもない場所にあったので、その湖もまたとんでもないところにあるのだろう。

 わたしがそんなことを言うと、ギルドの連中は、やっぱりわたしの考えは正しかったということか、と言ってきた。
 だから、わたしの挙げた他の場所にまだ何かあるのかもしれない、と。
 もしかしたらそうかもしれない。ここにきてようやく、わたしの勘も当たってきたのだろうか。
 とはいえ、残りわずかな可能性の中から選んだのだから全く自慢にはならないが。


 その時、ビッパが昨日『水晶の洞窟』から持ち帰った水晶のかけらを思い出した。
 そうか、その手があった。

 ジュプトルは未来の世界で、少年の『時空の叫び』を使い、『時の歯車』の場所を探し当てた。
 それならわたしも、その力を借りようじゃないか。
 今更だが、これでようやく条件が対等になったな、ジュプトル。


 チコリータの少年に、ビッパの水晶を渡した。
 幸運なことに、何か見ることができたらしい。

 ジュプトルがアグノムを倒して、『時の歯車』を盗もうとしている。
 そんな光景が見えた、と少年は言った。

 ギルドの中は色めきたった。わたしも思わずガッツポーズをしそうになった。
 『水晶の洞窟』に『時の歯車』はあった。しかも、ジュプトルは必ずそれを盗みに来る。
 見えた光景が過去のものか未来のものかは、少年にはわからないらしいが、今までの状況を総合的に考えて、まだ間に合う可能性はある。
 もしかしたらもう、手遅れなのかもしれない。
 しかし、間に合う可能性だって十分にある。あると思いたい、というのが本心かもしれないが。
 それでも、それに賭けてみるだけの要素は十二分に満たしている。

 待っていろジュプトル、今度こそ逃しはしない!!


 ギルドの連中のテンションは最大限にあがる。わたし自身も興奮していた。
 ペラップがプクリンに号令を促す。
 しかし、反応がない。


 …………?


 ……あれ、もしかして……寝てる?


 ……な、何と言うか……大物、だな……ジュプトル以上の……。



To be continued……