2−4:声の行方




 バトルの大会。今日のは規模は大きくないけれども、テレビの中継も入っている。
 フィールドに立つと、一部から強烈な野次が飛んできた。

「ポケモン嫌いは引っ込めー!」

 そんな心ない声が耳に突き刺さってくるけれども、一切反応しない。目を閉じて深呼吸して、もう一度目を開けば、そんな声も届かなくなる。
 お願いね、とボールの中のバシャーモに声をかけ、私は目の前の勝負に身を投じる。



 午後三時。想定していた通りの時間に、決勝戦が終わった。
 最後までフィールドに立っていたのは、私。最後の技が決まった瞬間には、飛び続けていた野次なんてかき消えるほどの歓声が、会場全体から響いてきた。

 わっと報道陣が集まってくる。ビジョンに私の姿が映され、優勝者インタビューが始まる。
 今日の試合の感想。調子。いつも聞かれる質問をつつがなく返答する。その間、歓声にかき消されていた野次がまた飛んでくる。
 記者たちの顔を見ると、その件について触れたそうな顔をしていた。あらかた質問に答えたあと、ちょっと良いですか、と言い、インタビュアーの人にマイクを借りた。
 一瞬、会場が静まる。私は深呼吸をして、はっきりとした声で言った。

「私は、野球が大好きです」

 観客席から一斉にざわっと声が上がる。ひと呼吸置いて、私はまたマイクを口元へよせる。

「もちろん、ポケモンのことも、ポケモンバトルも大好きです。
 だから誰にも負けません。負けたくありません。だけどそれと同じくらい、野球を観るのが大好きです。

 昔、ある野球選手が言いました。『人の心を一番動かすのは、人だ』と。私も、そう思います。
 私はポケモンバトルをしている人たちに憧れて、トレーナーになりました。
 私は野球に出会って、野球をする人たちに心を動かされました。

 私はポケモンが好きです。ポケモンバトルが大好きです。そして、野球を見るのも、大好きです。
 私はこれからもトレーナーとして、バトルを続けます。そして、球場にも行きます。嘘はつかない。ごまかしたりもしない。ただ、堂々と言い続けます」

「好きなものに、好きだと言い続けます」

 以上です、と私は笑い、マイクを返した。ざわめく会場から、控え目な拍手が上がる。
 更なる情報を引き出そうとする報道陣を無視して踵を返し、私は足早に控え室へ帰った。


 控え室へ戻って、私はぐったりといすに座った。
 はっきり言ってやった。好きだって言ってやった。
 胸のつっかえが取れて、とても爽やかな気分だった。疲労感と充実感が肩にのしかかってきた。猛烈に眠い。

 時計を見た。三時半。まだ少しは時間がある。
 とりあえず一回家に帰って、シャワーでも浴びようかな。私は荷物をまとめて、控え室を出た。





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