6−4:テレビの向こう側の声




 結局試合中に二位のチームが負けたことでレジギガスのマジックナンバーはゼロとなり、今シーズンのリーグ優勝を目の前で決められた。

 僕は睡眠時間を削ってCM出演交渉の資料を作っていた。
 トウカさんは主にカントーで活躍するトレーナー。チームがこちらにいる間に顔だけは出しておきたい。まあ、最悪スイドウバシさんに押し付けるけど。

 それにしても流れで交渉することになってしまったけどどうやって会えばいいんだろう、と思いながらネットを漂っていると、翌日のポケモンバトルの大会に出場するらしいことが分かった。テレビ中継もしている。
 他球団の広報たちからも「大会後に出待ちしろ!」と煽られた。まあ、それくらいしか方法がないか。テレビの中継予定見る限りあんまり時間の余裕はないけど。
 ま、最悪他の仕事はモミジの街から引っ張ってきたアサキタにやらせればいいか。



 会場近くのポケモンセンターのロビーで、適当な時間まで待機する。僕はトレーナーじゃないから特にお世話になることもないのだけれども、入るのは誰でも自由だ。
 都合よく、ロビーのテレビで目当ての大会の中継をしていた。
 目当てであるトウカさんが現れる。聞こえてくる歓声の中に、聞くに堪えないヤジが混ざっているのがテレビ越しでもわかる。球界の関係者として胸が痛い。

 バトルのことはさっぱりわからないのだけれども、噂のトウカさんはとても強かった。
 三対三のルールでのバトルなのだけれども、ほとんど最初に出す赤い鶏に倒されていた。

 見事に頂点を勝ち取った彼女は、優勝者インタビューで、はっきりとした声で、笑顔で言った。


『私は、野球が大好きです』


 その言葉を聞いて、僕は何だかふっと体の力が抜けて、じわりと目頭が熱くなった。
 自分の立場や将来もあるだろう。客席の一部からの声も聞こえていたはずだ。それなのに、この人は、こんなにはっきりと、『好きだ』と言ってくれた。

 スマホに続々とメッセージが届いた。他球団の広報たちからだった。
 『いける』『この人なら大丈夫』『やべ、泣きそう』などなどの言葉。全員が最後に、同じ言葉を書いていた。

『伝えてください。「好きだと言ってくれて、ありがとう」って』

 必ず、とスマホを握りしめ、僕はうなずいた。鞄にスマホを滑り込ませ、事前に調べていた大会会場裏口へ急いだ。



『代打。

 これから試合ですが今日の温泉は代打です。
 皆さん初めまして、広報の安佐北と言います。普段はホームページ管理してます。

 天満さんはちょっと別用でどっか行ってます。大事な用事です。
 多分来年のお正月くらいにはわかるんじゃないですかね。

 さて、こちら試合前のロッカールーム。昨日目の前で胴上げされたので選手みんな燃えてます。
 CS行くには勝ち続けなきゃですからね。
 まだまだシーズン終わるまで応援お願いします。

 天満さんみたいにゆるーく文章書けないや。困ったなあ。
 まあ代打は多分今回限りで。次からはまたいつもの感じでーす。』






←前   小説本棚   次→